海外ドラマ『COLD CASE』各話のレビューと、このドラマ最大の特徴である挿入歌について紹介していきます。舞台となった時代にアメリカでどんな音楽が流行っていたのか、僕も勉強していきたいと思います。また、同時に当時の日本の様子(世相や文化)も合わせて見てみます。
1964年9月25日、ゲイバー裏の路地で発見された名門大学野球選手のダニエル・ホルツ。コールドケースとなっていた彼の事件を、再び調査してほしいと死期のせまった彼の母親が、リリーたちの元を訪れます。ゲイという存在をまだ世界が認知しようとしなかった時代。その事実に目を背けていた母親が、もう一度、息子の生きた証に目を向けようとしたことで、知られざる彼の姿が浮き彫りになっていきます。同時に、何故彼が殺されなければならなかったのか? 当時の社会的な背景とともに明らかにされていく今回の話は、今の時代から見るととても切ないです。
調べてみると、ちょうど放送直前の2003年6月、アメリカ合衆国最高裁判所は「自宅内における成人間の合意による私的で非商業的な性行為を倫理に基づき州法が犯罪とすることは、人々の自由とプライバシーに立ち入る正当な理由に足らない」とし違憲の判断を下したというニュースを見つけました。この判決によって、それまで世界中で制定されていた"ソドミー法"が撤廃される動きが加速していきます。ソドミー法とは「自然に反する性行動を性犯罪とみなす」法律です(ちなみにドラマの中で事件が起きた場所は"ソドム通り"となってましたね)。
こうした世間の動きに反応して、このエピソードが構想されたのじゃないかと推測します。
ジェンダーにまつわる問題が公に議論され、LGBTと言われる生き方が市民権を得つつある現代ですが、その根っこには、虐げられながらも自分たちの生き方を貫いた人たちの存在があるのですね。原題の"A Time to Hate"は、その時間の重みを示しているようです。
アメリカではこの事件の5年後にあたる1969年(僕の生まれた年だ!)、後に"ストーンウォールの反乱"と呼ばれるディスコでの事件を機に、急速にゲイ開放運動の機運が高まっていったのだそうです。そんな"前夜"の鬱屈とした世界観を、モノクロ映像で見事に訴えかけてくれています。
ゲイ差別と真っ向から立ち向かった"ダニー"ことダニエル・ホルツ(写真左)と、その恋人として今も忘れ難き想いを引き摺り続けていた判事、"ハンク"ことヘンリー・フィリップス(写真右)。ダニーを演じているのはパトリック・マクメイナスという俳優さんですが、調べるまでは、ずっとクリス・エヴァンス(=キャプテン・アメリカの人)だとばっかり思ってました(笑) 似てません? で、恋人ハンク役のイケメンはブランドン・ラウス。DCファンなら知らぬはずはない"アトム"ことレイ・パーマーであります(『The FLASH』『レジェンド・オブ・トゥモロー』)。この3年後に『スーパーマン・リターンズ』でクラーク・ケントを演じてブレイクするんですなあ・・・。
最初は「うお!キャプとアトムが愛し合ってるのか!」とワクワクしちゃったんですけど(;´Д`A 。
ハンクの現在を演じるチェルシー・ロスさんも、海外ドラマではよくお見掛けする方ですね。
原題「A Time to Hate」〔初回放送日:2003年11月16日〕
1964 in MUSIC
さて楽曲のほうですが、オープニングナンバーは、モノクロームでタバコの煙がたゆたうゲイバーで、ドラッグクイーンの"ティンカーベル"ことジョージ・ポークが歌う「THE SHOOP SHOOP SONG (It's in His Kiss)」。沢山の歌手が歌っていますが、劇中で採用されたのはソウルシンガーのベティ・エベレットの音源のようです。
この曲、1990年にはシェールが自らの映画『恋する人魚たち』でも歌ってますね。ウィノナ・ライダーがカワイイ! ちなみに小さい方の子は『アダムス・ファミリー』のクリスティーナ・リッチ!
続いては、シャングリラスの「Remember (Walkin' In the Sand)」。艶っぽい声でございますなあ。高校の同級生だったウェイス姉妹と、双子のガンザー姉妹の4人組は当時のアイドルグループとしてはカルトな人気を博していたようで、"ちょいワル"なワイルド路線で成功したんだそうです。K-POPでいうところの、4minuteや2NE1、BLACK PINK的な位置づけかな? "ガールクラッシュ"ブーム、ありましたなあ。1980年にはエアロスミスもカバーしたようですが、オリジナル同様あんまりヒットしてない模様。
続いてはメジャー曲、ディーン・マーチン御大の「You're Nobody Till Somebody Loves You」であります。いろいろなアーティストがカバーしてたりするので、大ヒットした曲だと思ってましたが、当時はビルボードホット100に9週間ランクインはしているものの、最高位は25位なんですね。意外だ。
誰かに愛されるまでは君は誰でもない
誰かに気にかけてもらえるまでは誰でもない
という歌詞は、ダニーよりはハンクのほうの生き様にオーバーラップします。
動画のほうは、なんかディーンっぽかったので、こちらをチョイス。真面目に歌ってません(笑) 僕の中のイメージはやっぱり『キャノン・ボール』での酔いどれニセ牧師なんだなあ。
お次は、どことなくムード歌謡感漂う、ジーン・ピトニーの「Town Without Pity(邦題:非情の町)」。ジーンは60年代、16曲ものトップ40ヒットを連発した人気歌手であり作曲家。もともと、1961年公開されたカーク・ダグラス主演の映画『非情の町』のために作った曲で、1962年1月にビルボードトップ100で13位まで昇りつめた曲です。同年<ベストモーションピクチャーソング>でゴールデングローブ賞受賞、<ベストミュージック>でアカデミー賞にノミネートされています。
君が若く僕たちのように愛し合ってる時
目に映るこの世界に戸惑っている時
どうして人は僕たちを傷つけるのだろう?
恋をしている者だけが知っている 非情なこの町のやる事を・・・
という歌詞もまた、物語にピタリとハマりますね。ナイス選曲です。カーク・ダグラスの映画のほうも陰鬱な映画っぽくて(観てないので)、WWⅡ後の兵士によるレイプ事件にまつわるお話。兵士側の弁護人をカーク・ダグラスが演じているようですが、結局、兵士を無罪にするために被害者を追い詰め、挙句自殺に追い込んでしまうというストーリーだとか・・・うーむ。観たくない(-_-;)
・・・さて、エンディング曲です。オリジナルは1950年代後半にピート・シーガーというフォークシンガーが作ったもので、ドラマに使用されているのは1964年に結成されたバースによるリメイク。実際にリリースされたのは翌年10月のようですね。その年の12月にビルボードホット100でトップをゲットしています。カナダでもチャートの3位に、イギリスでもシングルチャート上位にランクして欧米で大きなヒットになった模様。作ったピートが国際的な軍縮、公民権運動を推進する社会活動家という顔も持っていたこともあってか、歌詞のベースになっているのは聖書のテキストで、考えさせられるものになっています。とりわけ、今回のドラマにおいては
あらゆる物事にはタイミングがあり
天の下、あらゆる目的にはしかるべきタイミングがある
手に入れた時もあれば、失った時もある
引き裂かれた時もあれば、繕った時もある
愛するための時もあれば、憎しみのための時もあるだろう
という意味合いの歌詞が、ダニーの母・ヘレンたちの安らかな表情とともに心に染みます。
1964 in JAPAN(昭和39年)
まだこのおじさんも生まれていない時代でございます。そりゃあ、曲の動画が軒並みモノクロなわけだ。だからドラマもモノクロなんですよねー。
日本では何があったのか・・・言うまでもなく東京オリンピックのあった年です。少年サンデーでは『オバケのQ太郎』連載がスタートし(ちなみに『ドラえもん』は5年後)、かっぱえびせんやガーナチョコ、ワンカップ大関、味ぽん等、ロングセラー商品が次々と誕生しております。ホンダは名車S600を発売し、シャープは日本初の電卓を発売。ぐいぐいと日本が成長への坂道を駆け上っていった時代ですな。
坂本九ちゃんの「明日があるさ」がリリースされたのもこの年。スタジオ音源より、ライブ音源のほうが九ちゃん独特のクセのある歌い方が面白いので、こっちを貼っておきます。
この頃の日本には、まだジェンダーの問題とかLGBTの話とかは当然のようにメインストリームには存在しておらず、そう考えると、アメリカと日本の文化成熟度の差って凄いものがあるなと思わずにはいられませんね。
今日は楽しそうなリリーとスコッティ。登場2回目にして、仕事に馴染んでいる感醸し出しているスコッティに、リリーもスティルマン警部補もちょっと驚いてる感じ。
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