999-Ep2:火星の赤い風

松本零士・不朽の名作『銀河鉄道999』をレビューしながら、鉄郎やメーテルとともに「命の燃やし方」について考えていく企画でございます。今回は第2話『火星の赤い風』。地球を出て初めての停車駅、火星で、鉄郎を早速、命より大切なパスポートを奪われるというトラブルに見舞われます。


■滅びゆく火星の町

停車駅のある町、グレートシルチスは赤い砂混じりの風が吹きすさび、人の影も見えないゴーストタウンのような様相を呈していました。移民促進のため1世紀もかけて地球同様に気圧改造をしたものの、火星の環境では産業を発展させることが出来ず、まるでアメリカ中西部時代のよう。過酷な環境下で多くの移民が命を落としただけでなく、生き残った人々も新天地を求めて火星を脱出していった結果でした。銀河鉄道の路線拡大で、地球からあまりに近過ぎた火星は移民先や観光地としての魅力を失い、訪れる人も居なくなってしまったようです。

実際の火星を見てみると、大シルチス台地(Syrtis Major Planum)と呼ばれる楯状火山があります。写真で暗い色に見えているのは、このエリアが他と違って玄武岩質の火山岩や塵が少ないせいだそうで、その原因はそこに吹く風のせいなんだとか。


■ゼロニモとフレーメ

火星を出て行きたい男・ゼロニモと、その恋人・フレーメ。鉄郎のパスを手に入れたとしても、出て行けるのはゼロニモだけ。「迎えに来る」とゼロニモは言いますが、もっと住みよい星に行ってしまえば、自分の事など忘れてしまう・・・というフレーメの不安は痛いほどわかります。男って身勝手だなぁ・・・(;´Д`A ``` 彼女の言う通り、もう1枚パスが手に入るまで待つことができれば、2人とも命を落とさずに済んだかもしれないのに。それだけ火星という場所が過酷だということなんですね。

結局、ゼロニモも意識を取り戻した鉄郎によって命を落とします。命と言っても機械の命ですが。彼が鉄郎を撃てなかった理由は、鉄郎の右手に滲んだ赤い血のせいでした。今わの際で、鉄郎が生身の人間であることをゼロニモはうらやみます。生身の心臓だった頃は、夢も希望もあったとゼロニモは言いましたが、機械の体になってしまうと夢や希望を持つココロまで失われてしまうのでしょうか? それが生への執着までも奪ってしまうのでしょうか? 

ゼロニモとフレーメが既に機械の体を手に入れていた事実を知った鉄郎は、「せっかく永遠の命を持ったのにどうして・・・?」と困惑します。


■酒場のオヤジの独り言

「これしか買えなかった」と鉄郎に機械の右足を見せてくれた酒場の親父。「中途半端になるなよ」という鉄郎へのメッセージは、機械化するのなら徹底的にするべきだし、しないのなら一切しない方がいいというアドバイスだったのかもしれません。足だけ機械化した親父だからこそ、達観したことがあったんでしょう。

二人の運命を知ってか知らずか、酒場のテラスでロッキングチェアに座りながら、つぶやく親父。「ワシもやっと買えた機械の足だけは元気で、あとは微妙だ。いつかこの赤い風の中で、赤い砂に埋もれて眠る・・・もうじきだ」。そこに汽笛が聴こえ、親父は夜空を去り行く999を見上げて、こう続けます。

「若いの。長生きするだけが幸せかどうか、誰にも分からん。
 自然に生きて、自然に死ぬのが一番いいような気がするのぅ、ワシゃあ。
 死ぬべき時に死ねなかった人間は・・・みじめなもんだ・・・」

親父にとって"死ぬべき時"とはいつの事だったのか、そもそも親父自身のことなのか、そこは定かではありませんが、共に生きてきた人たちがこの世を去り一人取り残された彼にすれば、耐え難い孤独と決別する手段は"死"しかないわけで。年老いた彼だからこそ言える言葉であり、鉄郎のような若者にはまだ受け入れられない感覚なんだと思います。けれど機械の体を選んだことで、ゼロニモたちは若くしてそれを感じてしまったのかもしれません。

命は"どれだけ長く燃やす"か、ではなく"限りある中でどう燃やすのか"が大切。僕は親父の言葉をそんなふうに受け止めました。


■エンディングナレーション

火星に吹く赤い風の音は 
その赤い砂の下で眠る者の 啜り泣きだと人は言う
火星の赤い風は 今日も 明日も
夢を果たせなかった者のために鎮魂歌を歌っている


■次回予告ナレーション

第3話「タイタンの眠れる戦士」

鉄郎よ、他人のために自分を投げ出すことの出来る"人の心の美しさ"を見ておけ。鉄郎よ、自分のために他人を生贄にして憚らぬ"人の心の醜さ"を見ておけ。次回の『銀河鉄道999』は「タイタンの眠れる戦士」に、停まります。 



 

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