骸骨乗船員

我が家にあちこちに散らばっているBOOKSたち。コンビニで衝動買いしたジャンク本から、ちょっと奮発した重量級の写真集まで。捨てるに捨てられず、僕と一緒に引っ越しを共にしてきた愛すべきBOOKSたち。断捨離という名のもとに別れの儀式を行っております。

『Night Shift』にしろ今回の『Skeleton Crew』にしろ、ロックバンドの名前から来ているっぽいところからしてキングらしいと思うわけです(笑) なんなら『Nightmares&Dreamscapes』だって両方ともロックバンドにいるし。

とまあ、そんなことを考えながらン十年ぶりにページをめくりました。こちらも<扶桑社ミステリー>の#0002として1988年5月に出版された一冊。僕の手元にあるのは同年9月の第2刷版です。本国で1985年に出版された短編集を3分冊にした1冊目ということになります。残りの2冊も同じタイミングで発売されているんですが、こういうのって1冊だけ買う人ってどれくらいいるんでしょうね。僕は絶対まとめて全部買ってしまうタイプです。

原本の収録順ではなく、3分冊するにあたって作品ごとのボリュームを見ながら分け分けしましたという感じになっている。全部まとめてると4.5センチくらいの厚さになるので、確かに分冊は必要だったかもしれないけど、2分冊でも良かったんじゃね? とは思う。

さて、どうでもいいような話は置いといて、作品紹介に移ろう。


「握手しない男」(The Man Who Would Not Shake Hands)

〔1981年 ホラーアンソロジー<Shadows 4>収録〕

結構この話好きなんです。『<ジェルサレムズ・ロット>の怪』の冒頭を思わせる、爺さんたちが溜まり場でゲームに興じながら「昔、そういやこんな奇妙なことがあったんじゃ」と語り出すプロローグ。どこか日本の百物語的なムード。遥か昔の思い出ならば、とっくにディティールなど失われていてもおかしくないのに、やたらとリアルな情景描写。それこそが"恐怖"がもたらす効能なんだよ、とキングは言いたいのかもしれません。

とにかく、爺さんたちの話の主人公は、出張先のインドで不測の事故を起こしてしまい、呪いをかけられてしまった男・ブラウワー。その呪いのために人に触れることができず、孤独な人生を歩まざるを得なくなった彼が、最後に握手をした相手は・・・。

理不尽感が強烈な展開は、キング短編集の幕開けに実に相応しい。ちなみに原本では11番目に収録されている作品ですね。

WEB上ではダラーベイビー企画のトレイラーとか、アマチュア製作の動画もありますが、どれもイマイチなので、貼るのはやめときます(笑)


「ウェディング・ギグ」(The Wedding Gig)

〔<Ellery Queen's Mystery Magazine>誌 1980年12月号掲載〕

ジャズプレイヤーである主人公のもとへ、シカゴのギャング(原文は"small-time racketeer"とあって、ボス格というよりはチンピラ、ならず者程度のポジションっぽい)、スコレイが自分の妹モーリーンの結婚式での演奏を依頼しに訪れる。高額なギャラに惹かれてオファーを受けるが、式の当日、スコレイは敵対する組織に殺されてしまう。そして妹のモーリーンは・・・。

というお話なんだけども、オカルトでも超常でもない。1920年代のアメリカのそういう界隈の物語。マフィアとかジャズとか。ところどころに言及されている、主人公たちが演奏する曲に興味はそそられるんだけど、時代が古すぎてちょっとピンと来なくて。

1923年ってどんな時代かといえば、第2次世界大戦勃発の前で、アメリカがウォール街大暴落の奇禍に見舞われる少し前。割と豊かな時代だったのかな。Wikiってみると、7月にはハリウッドのあの看板が設置されたり、10月にはウォルト・ディズニーが会社を立ち上げてたりします。海の向こうでは、かのル・マン24時間レースが始まり、日本は関東大震災に揺れる年。

▼物語の最後に主人公がモーリーンに求められて演奏したのはこんな曲。もともとは第1次世界大戦頃にイギリスで生まれた曲のようですが、沢山のカバーがあります。これはジョン・マコーマックによるもので1919年頃のものらしいので、時期的にも原作と重なります。

曲名は『Roses of Picardy』で『ピカルディのバラ』なんですが、日本語翻訳では『ピカデリー(Piccadilly)のバラ』になっております。いずれもイギリスに実在する地名でして、翻訳ミスなのか、もともと創作なのか、確かめる術がなくてわかりませんが、少なくとも『ピカデリーのバラ』という曲はない模様。

ま、なんにせよ、個人的には心も踊らず、ドキュメンタリーのように読みました。うぬぬ。そもそもエラリー・クイーンの名を冠した本に、なんでキングが載るんだ(笑)


「カインの末裔」(Cain Rose Up)

〔<Ubris>誌 1968年春号掲載〕

海外の小説やドラマには必ずと言っていいほど、聖書や福音書に関するくだりが出てきて、仏教の国日本で無宗教みたいな生き方をしている僕には、チンプンカンプンなんですが、このカインの末裔も、旧約聖書『創世記』第4章に登場するカインとアベル兄弟から来ていますね。アダムとイヴの息子で兄・カインは人類最初の殺人者として、弟・アベルを殺したと伝えられています。そのエピソードが物語の中で語られます。

そして主人公であり殺人者カートは、大学の寮の窓から無差別に狙撃を始めるわけですが、このあたりはちょうど発表2年前にテキサスで起きた、俗にいう『テキサススタワー乱射事件』を思わせるもので、キングはこれに触発されて書き上げたのかもしれないですね。

結局、カートの動機は不明で、終わり方もスッキリせず。ただただ、簡単に銃を持ち運べるアメリカの病巣を僕たちに見せてくれるのみ。この年の2月にはサウスカロライナ州立大学で人種差別主義の学生が黒人を中心に大勢を死傷させる事件も起きています。

『X-ファイル』の中でも、似たような話があった気がするなあ・・・と調べてみたら、シーズン2の第3話『血(Blood)』の中の一幕でした。

大学名は『コミュニティー大学』になっていますが、これもテキサスの事件をモチーフにして製作されたようです。調べてみると、まあとにかく、アメリカって学校の中で大量射殺事件がバンバン起きてます(;'∀')

テキサスタワーの一件は、2016年にアニメ映画にもなってました。


「死神」(The Reaper's Image)

〔<Startling Mystery Stories>誌 1969年春号掲載〕

不吉な言い伝えを持つ、エリザベス朝時代の"デアイバー鏡台"を巡るショートストーリー。登場人物も少なく、短編動画にしたくなる作品で『トワイライトゾーン』とか『世にも不思議な物語(One Step Beyond)』とかに収録しておきたい一篇。実際にYouTubeで調べてみると、いろいろアマチュア製作ムービーが出てきますが、残念ながら、どれもこれも「うーむ」と言わざるを得ない仕上がりでございます。

"呪い、鏡台"で検索してたらこういうまとめを発見・・・世の中いろいろニーズがあるんですね・・・というかインターネットって怖いわ・・・。


「ほら、虎がいる」(Here There Be Tygers)

〔<Ubris>誌 1968年春号掲載〕

ここまでの話の中で一番気に入っている作品。僕の求めているキングらしさを感じます。おしっこ漏れそうな初等中学3年生が、授業中に恥ずかしい想いをしてトイレにいくと、そこに虎がいて、嫌いな友達やイヤな先生たちを食べちゃうという、子供の頃に僕もしたかもしれない陳腐な妄想を、こういうクオリティに仕上げてみせるキングが素晴らしい。

同じ題で、レイ・ブラッドベリが1951年に短編を書き上げていて、日本では『この地には虎数匹おれり』という放題で訳されて、『ウは宇宙船のウ』という短編集に収録されています。もともとは、前述したTV番組『トワイライトゾーン』のために書き起こされたお話だとか。内容はまったく違いますが、キングがブラッドベリのこの話をモチーフにしたというよりは、古代ローマや中世時代に地図を作る際、地図製作者が未知の領域を表す時に"HIC SVNT LEONES(ここには虎がいる)"と書き記したエピソードからの着想のようですね。ブラッドベリのほうのストーリーは、まさにそうだと思います。『トワイライトゾーン』では採用されませんでしたが、後に『レイ・ブラッドベリシアター』の一篇として映像化もされていて、YouTubeにあがっていますね。ちょっと読んでみたくなってきた・・・w

ちなみに"Tyger"は、"Tiger"のドイツ綴りなんですね。誤植かと思った。


「霧」(The Mist)

〔1980年 アンソロジー<DarkForce>掲載〕

「これ短編じゃない」と突っ込みを入れたくなる、ほぼ中編以上作品。なんなら、これ単独で出版してもいいんじゃない、と思うくらいの濃密なお話。突如として謎の霧に包まれた町で、スーパーマーケットに逃げ込んだ人々のサバイバルを描いております。正体不明出自不明の謎のクリーチャーたちは、キング作品の中では割としっかりクリーチャーとしての役目を果たしていて、オチも含めて納得のいくエンディングになっていると思います。

後に、キングお気に入りのダラボン監督で映画化をされた際は、エンディングに変更が加えられていて、原作に書かれている"HOPE"の意味が違う形で提示されます。映画版のエンディングは世界にとっては"HOPE"でしたが、主人公ドレイトンにとっては"絶望"でした。キングはこのエンディングを気に入っているようですね。確かに原作よりは、ある意味スッキリします(;'∀')

これはお薦めできるキング映画です!(笑)

さらにこのお話、2017年にTVシリーズで製作されましたが、話をおっぴろげすぎたのか、シーズン1、全10話で打ち切りになった模様・・・。無茶はするもんじゃないですね。サムネはグロくて興味惹かれるんですが、まだ見てません。

今ならNetFlixで無料視聴できます。

ゲームの『サイレントヒル』のベースともなった作品でもありまして、いろいろ柳の下のドジョウを狙えるテーマではあるんでしょうが、やっぱりダラボン監督の映画版が程よいアレンジで好感が持てます。本読むのが苦手は人は、ぜひ映画だけでも。


さて、この『骸骨乗船員』、冒頭のキングによる序文も面白くて、キングらしいあけっぴろげな作家生活について興味深いエピソードがてんこ盛りです。キングがなにから着想を得て、どんなふうに物語に仕上げていくのかや、作家という生業への想いなどなど。個人的には共感できるところが多々あって、「キングと話したら盛り上がれそう」などと一人ほくそ笑んだりしています(笑)

▼こちらは『霧』をメインに『Skeleton Crew』から何作かを抜粋したバージョン。『霧』のほか、この短編集と被っている作品は『ほら、虎がいる』『カインの末裔』。2分冊の後半『神々のワードプロッセ』から『ジョウント』『ノーナ』の2篇が収録されておるようです。

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