深夜勤務①

我が家にあちこちに散らばっているBOOKSたち。コンビニで衝動買いしたジャンク本から、ちょっと奮発した重量級の写真集まで。捨てるに捨てられず、僕と一緒に引っ越しを共にしてきた愛すべきBOOKSたち。断捨離という名のもとに別れの儀式を行っております。


このカテゴリーで最初に紹介するのは、もはや巨匠の域に達したスティーヴン・キングの『深夜勤務』。本国アメリカで昭和53年に出版されたキング最初の短編集『Night Shift』を2分冊で出版したもので、こちらはその前編にあたる一冊。出版したのは扶桑社。<扶桑社ミステリー>ラインナップの#0005として、昭和63年9月に発行された第2刷版(初版はその4か月前)であります。

なんともう30年以上前に買った本を、いまだに持っているという(笑)

▲擦り切れちゃってカバーの表紙折り返し部分とかは切れて無くなっております。


「地下室の悪夢」(Graveyard Shift)

〔<Cavalier>誌 1970年10月号掲載〕

物語の舞台は、メイン州(と言えばキングという刷り込みをされている僕♪)にある12年間も放置されていた織物工場の地下室。日当の高さに惹かれ、そこでの清掃作業に参加した流れ者の主人公ホールに災難が降りかかるというお話。日も当たず、長年の汚水が溜まったダンジョンのような地下室の様子や、汗みどろになって働くホールたちの描写が、自分もそこにいるかのように錯覚させてくれる一篇。奇怪なクリーチャーは登場せず、"まあ、そんな目にあう可能性は自分もゼロじゃないかも"と思わせる日常と非日常スレスレのシチュエーションは、その後のキング作品に相通ずるものがあります。

のちに(1990年)映画化されますが、キング映画のよくあるパターンで酷いB級作品に化けていました('Д' ;)。同年公開された『ミザリー』のほうが全然マシです。上の写真はいくつかある映画のビジュアルの中でもお気に入りのやつ。

主役のデヴィッド・アンドリュースは、その後『アポロ13』『ファイト・クラブ』『ターミネーター3』などのメジャー映画や、ドラマなどでバイプレイヤーとして活躍します。個人的には『X-File』の印象深いゲスト、ルーサーを演じたブラッド・ドゥーリフが出演しているのが嬉しい。実は彼、かの『チャイルド・プレイ』シリーズのチャッキーの吹替をやっていたことでも有名です。

▲『X-File』でもそうでしたが、この人顔に似合わず綺麗な涙を流すんですよねえ・・w ちなみに初出掲載だった『Cavalier(キャバリエ)』は1950年代に創刊され、現在も続いているアメリカのアダルティなメンズ雑誌でございます。


「波が砕ける夜の浜辺で」(Night Surf)

〔<Ubris>誌 1969年春号〕

キングの名作長編の一つ『スタンド』にもつながるシチュエーションを想起する作品。"A6"あるいは"キャプテントリップ"と名付けられたウイルスによって、世界中が破滅的なパンデミックに陥った世界を描いています。キング流"終末アオハル"ストーリーとでもいいましょうか。若者たちがニューハンプシャーのアンソンビーチで過ごす8月の一夜の物語。短いながらも、キングらしい情感溢れる描写は、読んでいると夜の波音が聴こえてくるようです。

<Ubris>はメイン大学が出版していた文芸誌で、キングは学生時代にこちらに作品を良く発表していたそうです。

なんと僕の生まれた頃に書かれた作品なんですよ((-_-)遠い目)。

▼いくつか映像化にチャレンジしたものもあるんですが、映像化しちゃうとダメなんだよなぁ・・・。


「やつらの出入口」(I Am the Doorway)

〔<Cavalier>誌 1971年3月号〕

キング作品ではたぶん珍しいスペースクリチャーもの? 主人公アーサーはNASAの計画で金星に行って戻ってきた元宇宙飛行士。任務中にアクシデントによって体の中に"なにか"が寄生したような状態になっておりまして、両手に包帯を巻いています。彼の意識が無い間にその"なにか"は、いろいろと悪さをするため、アーサーの精神は破綻寸前。友人のリチャードは、そんな彼を救うべく、彼の決断を手助けするのですが・・・ラストの描写がなかなか絶望的。

▲こちらもいくつか映像化されてますが、原作に忠実そうだなあと思ったのこちら。もちろん日本語版なんか出てないと思います。


「人間圧搾機」(The Mangler)

〔<Cavalier>誌 1972年12月号〕

こちらも<Cavalier>掲載の作品で、機械が自我を持って人を襲うというタイプのベタベタなホラー作品で、初期のキングはお得意分野だったかも。ちなみに「人間圧搾機」というのは主人公である警察官・ハントンが出くわしてしまった「ハドレー・ワトソン式高速仕上げ・折り畳み機6型」という、クリーニング屋さんの大きな機械のことです。

こいつがとある偶然が重なり自我を持ってしまうという展開なのですが、着想が面白い。キングがまだ売れる前、飯を食うにも事欠いて、クリーニング店でバイトしていた頃に着想した作品のようで、こういうこと考えながら仕事してたのかと思うと、なんかやっぱりキングって変人だな、と。

▲この作品も1995年にニューラインシネマによって映画化されており、ニューラインと言えばあの人、そう"フレディ・クルーガー"ことロバート・イングランドが主演し、監督はあのトビー・フーパーという顔ぶれ。この二人の名前を聞くだけで、どんな映画か想像つくでしょ? 実際に想像を超える脚本になってて、お口アングリです(笑) なのに、これ続編まであったりするんですよ。しかも2本も!(笑) で、出てくる機械はクリーニング屋の機械じゃなくなってます('Д')


「子取り鬼」(The Boogeyman)

〔<Cavalier>誌 1973年3月号〕

続きましても<Cavalier>から。ブギーマンと言えば、ジョン・カーペンターが世に送り出した『ハロウィン』の怪力マスク男を思い出すのですが、もともとは世界中に広く伝わる民間伝承からきていて、アメリカではブギーマン。子どもたちが言うことを聞かない時に「ブギーマンが来るわよ!」と大人が脅しに使う、まさに日本でいう鬼とか、そういう役回りのキャラクターですね。

キングの物語もそれを下敷きにしていて、ブギーマンによって子どもを3人とも死なせてしまったと悔やむ男が主人公のビリングス。彼がDr.ハーパーの診察室でことの次第を語る形で物語は進行します。まあ、読めば読むほど、この主人公がクズ親父の匂いがプンプンするもんで、なかなか同情できません(笑) そのせいもあって「結局、コイツが自分で子どもを手にかけてるというオチなんでしょ」と邪推しながら読んでましたが、そうじゃないんですね。・・・と書くと、まあだいたいの人はオチが分かっちゃうかもしれませんけど。

この作品も何度か映画化されているようですが、YouTubeでチェックする限り、どれもビミョーな仕上がりなので、あえてここには貼らないでおきます(笑)


以上、前半5編について紹介してみました。残り5編は次の機会に!

本そのものは新装で文庫が出ていますので、興味のある方は是非。

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